静岡地方裁判所 平成7年(わ)504号 判決 1996年2月13日
本店の所在地
静岡県静岡市西島二七四番地の一
株式会社ダルトン
(右代表者代表取締役 笹本康明)
本籍
東京都杉並区永福三丁目一番
住居
同都調布市国領町一丁目二五番地二〇 アイビハイツ六一二号
会社役員
笹本康明
昭和二七年一二月六日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官落合俊和及び弁護人(私選)杉田直樹(被告人両名について)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社ダルトンを罰金二五〇〇万円に、被告人笹本康明を懲役一年に処する。
被告人笹本康明に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社ダルトン(以下「被告人会社」という。)は、静岡市西島二七四番地の一に本店を置き、日用品雑貨の輸入販売を主たる目的とするもの、被告人笹本康明は、被告人会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人笹本は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上除外、架空仕入の計上等の不正の方法により、所得の一部を秘匿した上、
第一 平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が三五一九万七二〇二円であり、これに対する法人税額が一二四一万七七〇〇円であったにもかかわらず、平成三年七月三一日、同市追手町一〇番八八号所在の所轄静岡税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における総所得金額が三一〇万三五一〇円であり、これに対する法人税額が八四万七七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額一一五七万円を免れ、
第二 平成三年六月一日から平成四年五月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億一七二四万二七二七円であり、これに対する法人税額が四三一六万七一〇〇円であったにもかかわらず、平成四年七月三一日、前記静岡税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における総所得金額が二〇〇九万二六一〇円であり、これに対する法人税額が六七三万五八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額三六四三万一三〇〇円を免れ、
第三 平成四年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が二億四三九八万一九〇八円であり、これに対する法人税額が九〇六二万四七〇〇円であったにもかかわらず、平成五年八月二日、前記静岡税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における総所得金額が一億三四一六万八二六七円であり、これに対する法人税額が四九四四万四八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額四一一七万九九〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)(必要に応じて証拠の末尾に証拠等関係カード記載の番号を付記する。)
判示事実全部について
一 被告人会社代表取締役兼被告人笹本康明の当公判廷における供述
一 被告人会社代表取締役兼被告人笹本康明の検察官に対する供述調書(乙5)
一 被告人会社代表取締役兼被告人笹本康明の大蔵事務官に対する質問てん末書四通(乙1ないし4)
一 齊藤修也の検察官に対する供述調書(甲15)
一 齊藤修也(二通)(甲12、13)及び下村尚(四通)(甲16ないし19)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の査察官調査書四通(甲23、28ないし30)
判示第二及び第三の事実について
一 齊藤修也の大蔵事務官に対する供述調書(甲11)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(甲24)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(二通)(甲3、8)及び査察官調査書(甲20)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(二通)(甲4、9)及び査察官調査書(二通)(甲21、25)
判示第三の事実について
一 齊藤修也の大蔵事務官に対する供述調書(甲14)
一 大蔵事務官作成の証明書(二通)(甲5、10)及び査察官調査書(三通)(甲22、26、27)
(法令の適用)
被告人会社につき
一 罰条 法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項
一 併合罪の処理 平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)四五条前段、四八条二項
被告人笹本康明につき
一 罰条 法人税法一五九条一項
一 刑種の選択 懲役刑選択
一 併合罪の処理 改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定加重)
一 刑の執行猶予 改正前の刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、静岡市内に本店を置く被告人会社の売上及び利益が急激に増加し、それにより増加した法人税用の資金が不足し、その調達もままならなかったので、被告人会社代表取締役である被告人笹本康明が、被告人会社の健全経営のために本件脱税を指示し、三年間で合計八九〇〇万円余りという高額の税を免れたという事案であって、本件のほ脱率も六〇パーセント強であることなどに照らすと、態様は悪質である。加えて、ほ脱による利益はすべて被告人会社の資産に留保されており、被告人笹本康明に私利私欲の意図がなかったことは十分理解できるものの、この種の脱税犯罪は、源泉徴収等でほぼ一〇〇パーセントの納税義務を果たしている給与所得者や、正直に納税申告を行っている誠実な納税者をして、税負担に対する不公平感を醸成させ、ひいては、納税申告制度の根幹をも危うくするものであることなどに鑑みると、本件犯行の動機に酌量の余地はなく、被告人両名の刑事責任は重いというべきである。
他方、被告人会社は、既に本件にかかる修正申告を済ませた上、本税、延滞税及び重加算税を全て支払っていること、被告人笹本康明は、当公判廷において、本件を反省し、二度と本件のようなことを行わない旨明言していること、被告人笹本康明には前科がないことなどの弁護人が指摘する被告人両名に有利な事情もある。
そこで、これらの事情を総合考慮して、被告人両名について主文掲記の刑を定め、被告人笹本康明については、今回に限って、その刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 被告人会社につき罰金二五〇〇万円、被告人笹本につき懲役一年)
(裁判官 任介辰哉)